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ひとりごとのようにして呟く

宮下の目から

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宮下の目から

千野はおもむろに腰を上げ、ガラス戸の前喜運佳に立つと宮下をそこへ促した。 「ちょっと来て。ここからの眺め、けっこういいんだ」  戸を開け放ち、ベランダに出る。  畳一枚半ほどの広さのベランダで隣り合って、二人は手すりにもたれた。  東京郊外の立地、四階のその部屋からは、視界を遮るものは何もない。  住居に混じって点在する武蔵野の自然が眺められた。遠く公園を囲む雑木林の、赤く色づき始めた木々の頭も見える。風景は風景然として、宮下にしっくりなじんだ。  秋の空は高く、加工をかけたように真っ青で、突き抜けるように透き通っている。そこを、音もなく飛行機が横切った。  どこからか、母親を呼ぶ幼い子供の甲高い声が辺りに反響し、のどかな雰囲気がそこはかとなく漂う。 「いい部屋だねぇ」  心地いい波に揺蕩うように、二人はしばらく黙ってそうしていた。 「俺たちの部屋ね、焼けちゃったんだってさ」 「え?」  唐突に言葉を発した千野を、宮下は振り返る。 「少し前に近くまで行ってさ、懐かしくなって見に寄った。そしたら、部屋、黒焦げになってたよ。幸いケガ人とかは出なかったらしいけど、俺たちの住んでた部屋は新しくリフォームされるんだって。大家さんが言ってた」 「ふうん…」  眼下の家の軒先で、はためく洗濯物が見えた。  昼下がりの秋の空気はからりと乾いて、日なたの匂いが鼻を掠める。眩しい陽光の中でチラチラと舞う埃が宮下には美しく思えた。  風が千野の髪を揺らし、宮下の頬を撫で、通り過ぎていった。 「寂しいの。いつか千野のことを、なんとも思わなくなっちゃうときがくるかもしれないって、想像すると、どうしようもなく、たまらなく寂しいんだよ」 「…そうか。それは、どうなるだろうね」  それきり二人はまた口をつぐんで、そこからの景色に視線を戻す。
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